午前7時に自宅を出て、新幹線で岐阜へ向かう。
名古屋駅で停車したのぞみから、続々とネイビーを身にまとった
乗客が降りてくる。
岐阜駅に向かうJRの快速列車は、ホームゲームへ向かう
サポーターを運んでいるかのようだった。
最終節の舞台、岐阜市の長良川競技場に着くと、全国から集結した
アビスパサポーターたちが長い長い開門待ちの列を作っていた。
日に日に高まるJ1昇格への期待。
誰もが実感したに違いない。
2015年明治安田生命J2リーグ最終節。
3月から始まった8か月に及ぶ長い長いシーズンは
11月23日で幕を閉じる。
開幕3連敗から始まったアビスパ福岡は41節終了時点で3位。
現在7連勝中で勝ち点を79に伸ばし、
自動昇格圏内の2位磐田にとうとう追いついた。
ラモス瑠偉監督が率いるFC岐阜は20位でシーズンを終えることが確定している。
ホームチームのシーズン最終戦に訪れた多くのサポーターと、
岐阜のスタグルを求めるアウェイサポーターがごった返すスタジアム前の平和な光景。
一番の行列を作っていたのは、1本400円の飛騨牛の串焼き。
ゆうに200人を超える行列。待ち続けてありついた飛騨牛。
待った甲斐のある旨さ。
戻ったら、選手のピッチ内練習はもう始まっていた・・・
2位の磐田はアウェイで21位が決定的な大分との対戦。
得失点差で磐田に5劣るアビスパがJ1に昇格するためには、
福岡○、磐田○の場合・・・少なくとも7点差以上の勝利。
それ以外は、磐田の取りこぼしが絶対条件。
現実的に、今節で昇格を決める可能性は低いが、
何が起こるか分からないのがサッカーという競技。
それよりも何よりも、躍動する井原アビスパは、
もっと多くの人に知ってもらいたい。
長良川には、1300人と言われるサポーターが集結した。
14時、同時刻キックオフ。
大分トリニータにありったけの念を送りながら、
ピッチで戦う選手たちに全力で声援を送る。
キックオフから途切れることのない声援。
前半、酒井の折り返しに城後がヘッドで合わせて先制。
本当に7点取れるんじゃないかという勢いでアビスパの
選手たちは岐阜に襲い掛かる。
残留を決めている岐阜も恥ずかしい姿は見せられない。
ウェリントンに厳しく当たる岐阜のDF陣に阻まれ、
カウンターから決定機を作られるが、
中村航輔のセーブで事なきを得て、前半は1-0で折り返す。
大分vs磐田は0-0。
1時間早く試合が始まったJ3では
終了間際に劇的なドラマが生まれた。
サッカーは何が起こるか分からない。
飯田主審が後半開始の笛を吹く。
相変わらずウェリントンが厳しくマークされ、
岐阜がホームのサポーターに向かって攻める。
リスタートで一瞬プレーが止まったスキを突かれる。
岐阜の33番、レオミネイロが
3バックの裏に抜け、絶妙なパスが出る。
中村航輔との1対1をきっちり決め、
サポーターのもとへ。
湧き上がる長良川。ほぼ同時に磐田先制の報せ。
アビスパは勝たなければ話にならない。
酒井に代えて坂田を投入し、打開を図る。
そして70分を過ぎてアビスパが爆発する。
中原秀人がタテに入れる。
ウエリントンが落としてフリーで受けた末吉のクロスを、
エリア内に走り込んだウェリントンがヘッド。
川口能活の腕を弾き、クラブのJ通算1000ゴールを達成する。
さらにウエリントンが強さを見せて中村北斗につなぎ、
クロスを城後に合わせて3-1。美しい国見ホットライン。
そして抜け出した坂田が獲得したCKを
ウェリントンが叩き込みあっという間に4-1。
怒涛のゴールラッシュ。
自力で自動昇格を手にするまであと4点。
本当に取れる気がした。
しかしベテランDF深谷を投入して守備を整えた岐阜。
やられっ放しで終われないという攻撃を見せ、
アビスパのゴールを脅かす。
WBの中村北斗に代えてFWの平井将生を投入するも、
4点を取るのは厳しいなという時間に差し掛かる。
全力で歌い、飛び跳ね、腕を振り、ツイッターを確認し、
スカパーオンデマンドを見て大分vs磐田の経過を確認する。
「大分が追いついた!」と誰かが叫ぶ。
半信半疑で状況を確認し歓喜の声が方々で上がる。
喜んでいる最中に磐田が勝ち越したという情報が入る。
5点目を確信した平井将生のシュートが川口に阻まれる。
歓喜と絶望と安堵と落胆が秒単位で入れ替わる
最終節のジェットコースター。
4-1のスコアで、2015年J2最終節の幕は閉じた。
福岡、磐田ともに勝ち点は82。
得失点差で4点及ばず自動昇格には届かず、
アビスパはプレーオフに回ることになった。
たらればを挙げればきりがない。
札幌。横浜。水戸。味スタ。岡山。
終了間際に失った勝ち点、一つでも拾っていれば自動昇格だった。
ただ、その悔しさ、その失敗を無駄にせずに経験として
強くなったからこその、12戦無敗と8連勝だったんじゃないか。
開幕当初の目標勝ち点は77だった。
誰が82も勝ち点を積み重ねると思っていただろうか。
4位セレッソ大阪を勝ち点で15引き離し、
6位長崎との勝ち点差は22。
終盤戦、1-0で厳しい試合を潜り抜け続け、
下位チーム相手に大量点を重ねて磐田との
得失点差を一気に詰めたアビスパ。
J2の3位としては史上最高の成績でプレーオフに回る。
過去3年間、プレーオフとは無縁の秋を過ごしてきた。
自動昇格すればそれが最高だったけれど、
最強の挑戦者として、堂々とプレーオフを戦おうじゃないか。
11月29日15時30分、J1昇格プレーオフ1回戦の相手は、
Vファーレン長崎。
史上最大のバトルオブ九州。楽しみで仕方ない。
◇ ◇ ◇
試合後。
最終戦セレモニーで深谷主将から、恩田社長から送られる、
アビスパへの「プレーオフ頑張れ」というエール。
選手バスの出待ちをしているときにかけられた、
岐阜サポーターからの「アビスパ頑張ってね」という声。
シャトルバス乗り場への道すがら、
選手バスの前ではシーズンの終わりを惜しむかのように、
選手とサポーターが時間を過ごし、
隣のピッチでは未来のなでしこたちがボールを追っていた。
温かくも過酷な、日本が世界に誇る2部リーグ、J2。
過ごした厳しい日々は絶対に無駄にならない。
勝って上がろう、J1へ。